The Studyどんな研究?「文化横断的サービス」と国内旅行者の満足度
この論文は、日本マーケティング学会の学術誌『マーケティングジャーナル』46巻3号(2026年6月30日発行、早期公開は5月21日)に掲載されました[1]。同号は「グローバルツーリズム時代の訪日旅行者の心理」をテーマにした特集号です[2]。
論文では、異なる文化的背景を持つお客様に対して、言語や文化の違いに合わせるために、通常のサービスに加えて提供するサービスを「文化横断的サービス」と定義しています。多言語の案内表示や、外国語に対応できるスタッフの配置などがこれにあたります[1]。
これまでの研究は、インバウンド客自身の満足度への効果を中心に扱ってきました。この論文は、同じ場所でサービスを受けている国内旅行者にどのような影響があるかを、正と負の両面から初めて検証したとしています[1]。
Four Scenariosどうやって調べたのか?案内看板とホテルのフロント、4つの場面
多言語の案内看板
以前は日本語だけだった観光地の案内看板が、同じ内容の多言語表示になり、国内旅行者が必要な日本語の情報を見つけにくくなった場面(100人)。
ホテルのフロントで待たされる
ホテルのフロントでチェックインを申し出ると、外国人スタッフに「日本の方ですね、少々お待ちください」と言われ、日本語を話すスタッフが代わるまで待たされる場面(101人)。
日本語だけの案内看板
観光地の案内看板が日本語だけで、国内旅行者にとって読みやすい場面(100人)。
手続きが簡単になる
ホテルのフロントで、日本人スタッフに「国内の方でしたら、手続きを簡素化できます」と言われる場面(102人)。
調査は国内旅行者を対象としたオンライン調査で、回答者は403人(男性254人)です。回答者は4つの場面のいずれかの画像を見て質問に答え、その回答を構造方程式モデリングという統計手法で分析しました[1]。
Findings何がわかったのか?満足度を下げる道と、上げる道
論文は、次の4点を結果として示しています[1]。
- 相対的な低下感は、満足度を下げる。文化横断的サービスは、「インバウンド客に比べて自分への通常のサービスが相対的に下がった」という不均衡感を生み、国内旅行者の満足度を下げる。
- 対応力の高さは、満足度を上げる。同時に、サービス提供者の「有能さ(対応力)」を感じさせ、満足度を高める。この効果は、モデルの中の間接効果で最も大きかった。
- 通常のサービスの水準が下がったとは、受け止められていない。文化横断的サービスは、通常のサービスの「絶対的な水準」の低下には結びつかなかった。
- ただし、水準の低下を感じると影響は大きい。通常のサービスの水準が下がったと一度感じられると、満足度の低下の度合いは大きかった。
Implications宿泊施設は何に気をつけるべきか?論文が挙げる示唆と、研究の限界
論文は、観光地のサービス事業者への示唆として、次の点を挙げています[1]。
- 多言語対応や文化への適応は、「インバウンド客の要望に応えるため」ではなく、「多様な要望に応えられる力がある」という形で伝える(現地の掲示、ウェブサイト、SNSなど)。
- 相対的な低下感を生まないよう、地元住民向けの割引など、主に国内旅行者が利用しやすいサービスもあわせて用意する。
- 通常のサービスの水準を下げないことは、対応力の印象づくりに次ぐ重要な課題。特に繁忙期は、人手不足や待ち時間、混雑が生じないよう、人員の余裕と配置に配慮する。
一方で、調査は画像による場面提示にもとづくもので、回答者も国内の調査会社のパネル登録者に限られます。論文自身、実際のサービスを受けた直後の調査や、インバウンド客の受け止め方を同時に調べる研究が今後必要だとしています[1]。
Our Proposal芸苑道からの提案:どちらのお客様にも開かれた催しを
ここからは、芸苑道が宿泊施設の皆さまにお伝えしたい内容です。
1.『海外のお客様向け』ではなく、『すべてのお客様へ』
この研究は、インバウンド向けの対応が「自分たちは後回しにされている」と受け止められると、国内のお客様の満足度が下がりうることを示しました。伝統芸能の演奏会も、海外のお客様向けの催しとしてではなく、館内のすべてのお客様にお楽しみいただける催しとしてご案内する方法があります。
2.日本語と英語で、同じ温度の解説を
演奏の解説を日本語と英語の両方で行えば、どちらのお客様も置き去りにされることがありません。曲の背景や楽器の話を、それぞれのお客様に届く言葉で短くお伝えする進行を、芸苑道がご提案いたします(講師1名あたり¥88,000〜)。
3.スタッフの手を取らない運営を
研究は、通常のサービスの水準が下がったと感じられたときの影響の大きさも示しています。催しの準備や進行で現場の負担を増やさないよう、設営から進行まで芸苑道でお引き受けする形もございます。
Ask Us貴施設に置き換えると
ここまでは、公開されている資料にもとづく事実の整理です。実際に何をどのように組み立てるかは、貴施設の規模・立地・客層・繁閑の形によって変わります。芸苑道では、次のような点を伺ったうえで、貴施設に合う形をご提案しております。
- 問海外のお客様への対応が、日本のお客様にどう映っているか館内の案内や催しの見え方を、両方のお客様の立場から一緒に見直します。
- 問日本のお客様にも喜ばれる多文化の催しとは国内外のお客様がともに楽しめる演目の構成をご提案いたします。
- 問繁忙期に、接客の質を落とさずに体験を提供できるかスタッフの負担を増やさない進行の形について、ご相談を承っております。
ご状況を伺ったうえで、実施できる形かどうかを率直にお伝えいたします。芸苑道へご相談はこちら →
FAQよくある質問
この研究は、いつ、どこで発表されましたか?
関西大学商学部の千葉貴宏教授による論文で、日本マーケティング学会の学術誌『マーケティングジャーナル』46巻3号(2026年6月30日発行、早期公開は5月21日)に掲載されました。
インバウンド向けの対応は、日本のお客様の満足度を下げますか?
「インバウンド客に比べて自分への対応が相対的に下がった」と感じさせる場合は満足度を下げますが、「対応力が高い」という印象を通じて満足度を上げる効果もあり、後者の効果が最も大きいという結果でした。
研究にはどんな限界がありますか?
画像で場面を示すオンライン調査(国内旅行者403人)であり、実際のサービス体験の直後に調べたものではありません。回答者も調査会社のパネル登録者に限られています。
Sources & References出典・参考文献
- 千葉貴宏「文化横断的サービスが国内旅行客の満足度に及ぼす正負の影響」マーケティングジャーナル 46(3), 277-287, 2026年 https://doi.org/10.7222/marketing.2026.034
- 小野晃典「巻頭言 インバウンド観光の心理と行動の新展開——多文化環境下の知覚・意思決定・満足——」マーケティングジャーナル 46(3), 227-230, 2026年 https://doi.org/10.7222/marketing.2026.042
本記事は、公的機関・国際機関・学術論文などの公開情報をもとに作成しています(確認日:2026年10月12日)。数値や制度は改定されることがあるため、最新の情報は各出典の公式発表をご確認ください。
