The Studyどんな研究?「高所得者層」はひとつの集団ではない
この論文は、日本国際観光学会の『日本国際観光学会論文集』第33号(2026年3月、J-STAGEでの公開は5月13日)に、査読を経て掲載されました[1]。
論文は、観光庁が1回の旅行で現地での消費額が100万円以上の訪日客を「高付加価値旅行者」と定義していることに触れたうえで、こうした定義は消費額による事後的な分類であり、マーケティングでは事前に特定できるターゲット像が必要だと指摘します。多くの観光地は「高所得者層」をその代わりに用いていますが、高所得者層は均一な集団ではないことから、訪日中の活動の違いで内部を分類することを目的としています[1]。
Data and Methodどうやって調べた?DBJ・JTBFの意向調査の個票データ
分析には、日本政策投資銀行(DBJ)と日本交通公社(JTBF)が2024年7月8日〜18日に実施した「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(2024年度版)」の個票データが使われています。対象は、韓国、中国、台湾、香港、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、米国、オーストラリア、英国、フランスに住む、海外旅行経験のある20〜79歳で、有効回答は7,796人です[1]。
このうち、訪日経験があり、年収が居住国・地域の上位3分の1に入る人を「高所得者層」とし、訪日中に何らかの活動をした1,350人を分析しました。36の観光活動の実施の有無を多重対応分析で2つの軸にまとめ、クラスター分析で3つのタイプに分けています[1]。
2つの軸は、「消費・飲食志向」と「鑑賞志向」の対立、「自然活動志向」と「文化・歴史志向」の対立と解釈されました[1]。
Three Segments3つのタイプとは?鑑賞・自然、消費・都心、文化財・美術館
東アジア(韓国・中国・台湾・香港)が対象者の51.6%を占めます。
出典:柿島あかね「インバウンド高所得者層における観光行動の類型化」日本国際観光学会論文集 33(2026年)
| タイプ | 主な特徴(論文の記述の要約) |
|---|---|
| 鑑賞・自然体験混合型(53.3%) | 史跡や建築物の鑑賞と、温泉や雪景色などの自然体験を組み合わせる最大のグループ。日本旅館の利用が相対的に多い |
| 消費・都心娯楽型(32.2%) | 買い物や飲食が中心の都市型。滞在は4〜6日間が多く、訪日回数が多い。航空券と宿泊を個別に手配する人が51.0%。韓国・台湾・香港の割合が高い |
| 文化財・美術館鑑賞型(14.5%) | 史跡、日本庭園、美術館など文化・歴史に関心が集中する探求型。推奨意向が最も高い |
Findings何がわかった?支出額ではなく「購入率」に差
論文の主な結果は次のとおりです[1]。
- 体験1つあたりの支出額は、タイプ間でほとんど同じ。4つの体験分野のいずれでも、購入した人の平均支出額にタイプ間の統計的な差はありませんでした。
- 差が出たのは購入率。たとえば鑑賞系の体験の購入率は、文化財・美術館鑑賞型で60.7%、消費・都心娯楽型で6.0%でした。論文は、1人あたりの体験消費を押し上げるには、購入率を高めることが有効だとしています。
- 再訪意向は同じ、推奨意向は文化型が高い。再訪意向(7段階)はタイプ間で差がなく、推奨意向は文化財・美術館鑑賞型(6.53)が消費・都心娯楽型(6.30)を上回りました。ただし差は小さいとされています。
- サステナビリティへの意識に差。消費・都心娯楽型は、サステナブルな取組の重視度と追加支払いへの賛成度がいずれも他の2タイプより低い結果でした。
なお、論文の注によると、「伝統芸能鑑賞(歌舞伎や能)」を訪日中にした人は対象者の2.7%で、実施率が3%未満の活動として分析からは除かれています[1]。
Implications事業者は何をすればよい?論文が挙げる商品設計と、研究の限界
季節の景観と短時間の体験
季節の自然景観の訴求に、散策などの短時間のアクティビティを組み合わせ、当日参加のしやすさや予約・決済の簡便さを整えることが有効としています。
時間の効率
駅からの近さ、モバイル決済、当日予約枠、短時間で完結することなど、時間の効率に直結する価値が購入率を高めるとしています。優先案内や確約席、送迎などで単価を高める余地にも触れています。
深い体験と希少性
専門ガイドの解説、通常は非公開の文化財の特別公開、テーマ別のパスなど、知的好奇心を満たす深い体験が有効としています。少人数限定や時間外利用といった希少性も単価の向上につながるとしています。
自己申告のネット調査
データは自己申告のインターネット調査で、国籍・地域の構成は入国統計を再現するものではありません。高所得者層は各国内の年収上位3分の1という相対的な区分で、超富裕層や「高付加価値旅行者」とは一致しない可能性があります。旅行全体の総支出額や総合満足度も取得できていないとしています。
以上は、論文の考察と「本研究の課題と今後の展望」の要約です[1]。
Our Proposal芸苑道からの提案:お客様のタイプに合わせた文化体験を
ここからは、芸苑道が宿泊施設の皆さまにお伝えしたい内容です。
1.「購入率」を上げるのは、出会いの機会
この研究では、体験1つあたりの支出額より、体験に参加する人の割合に差が出ていました。伝統芸能を鑑賞した人は2.7%にとどまっています。館内で、移動や予約の手間なく演奏に出会っていただける機会をつくることは、参加のきっかけを増やす方法のひとつです。
2.温泉旅館では、自然と文化を一夜に
最大のグループである「鑑賞・自然体験混合型」は、温泉のある旅館の利用率が51.2%でした。湯上がりのひとときや、雪景色・紅葉の見える時間に演奏を添えるなど、自然の楽しみと文化体験を組み合わせる形をご提案いたします(講師1名あたり¥88,000〜)。
3.文化への関心が高いお客様には、解説と少人数で
「文化財・美術館鑑賞型」は、深い解説や少人数の体験が有効とされ、推奨意向も高い傾向にありました。楽器の由来や曲の背景を演奏家が直接お話しする少人数の演奏会など、深く味わっていただく構成について、ご相談を承っております。
Ask Us貴施設に置き換えると
ここまでは、公開されている資料にもとづく事実の整理です。実際に何をどのように組み立てるかは、貴施設の規模・立地・客層・繁閑の形によって変わります。芸苑道では、次のような点を伺ったうえで、貴施設に合う形をご提案しております。
- 問貴施設のお客様は、どのタイプに近いのか宿泊のお客様の傾向をうかがい、合う体験の形をご一緒に考えます。
- 問文化への関心が高いお客様に、どんな体験が響くか解説を交えた少人数の演奏会など、深く味わっていただく構成をご提案いたします。
- 問温泉旅館で、自然の楽しみと文化体験を組み合わせられるか季節や景色に合わせた演目と時間の設計について、ご相談を承っております。
ご状況を伺ったうえで、実施できる形かどうかを率直にお伝えいたします。芸苑道へご相談はこちら →
Glossaryこの記事に出てくる用語
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 高付加価値旅行者こうふかかちりょこうしゃ | 日本政府観光局(JNTO)の調査では、訪日旅行1回あたりの着地消費額(国際航空運賃を除く現地での消費額)が1人100万円以上の旅行を「高付加価値旅行」としています。 |
FAQよくある質問
この研究はいつ、どこで発表されましたか?
公益財団法人日本交通公社の柿島あかね氏による論文で、『日本国際観光学会論文集』第33号(2026年3月)に査読を経て掲載されました。J-STAGEでの公開は2026年5月13日です。
高所得の訪日客はどのようなタイプに分かれますか?
「鑑賞・自然体験混合型」(53.3%)、「消費・都心娯楽型」(32.2%)、「文化財・美術館鑑賞型」(14.5%)の3タイプです。
研究で言う「高所得者層」とは誰のことですか?
訪日経験があり、年収が居住国・地域の上位3分の1に入る人です。各国内での相対的な区分で、観光庁の「高付加価値旅行者」(1回の旅行で現地消費100万円以上)とは一致しない可能性があると論文は述べています。
Sources & References出典・参考文献
- 柿島あかね「インバウンド高所得者層における観光行動の類型化——多重対応分析とクラスター分析を用いた活動ベース・セグメンテーション——」日本国際観光学会論文集 33, 7-18, 2026年 https://doi.org/10.24526/jafit.33.0_7
本記事は、公的機関・国際機関・学術論文などの公開情報をもとに作成しています(確認日:2026年10月13日)。数値や制度は改定されることがあるため、最新の情報は各出典の公式発表をご確認ください。
