GEIENDO芸苑道
調査・研究レポートWhat Makes Intangible Heritage Tourism Experiences 'Deep'?

文化体験が「深く」なる条件
無形文化遺産観光の研究

公開 更新 文・細川明日香(株式会社芸苑道 代表)読了 約7分
無形文化遺産の観光で、「深い体験」は何から生まれるか——中国の旅行記64件を分析した2026年の研究【学術論文】
ANSWER

Ming Lou、Shaomei Hu、Di Hu、Qing Zhang(安徽工業大学)は、2026年6月11日に学術誌PLOS Oneで、無形文化遺産(ICH)観光の「深い体験」がどう生まれるかを分析した論文を発表しました。旅行コミュニティやSNSの旅行記・レビュー64件(23の省級行政区、約7万6,000字)をグラウンデッド・セオリー(データから概念を導く質的研究の手法)で分析し、5つの基礎条件が5つの知覚評価を通じて、個人的意義(3項目)と社会的意義(2項目)につながるモデルを示しています。中国の事例にもとづく研究である点には留意が必要です。

このテーマの全体像はこちら観光の「本物らしさ」は誰が決める?真正性研究の3つの理論【MacCannell・Cohen・Wang】

The Study旅行記64件を、グラウンデッド・セオリーで分析

この論文は、中国のICH観光(無形文化遺産を活用した文化観光)を対象に、「深い体験(profound experience)」を、情緒的・価値的・意味的な体験として定義し、その生成の仕組みを探ったものです[1]。

  • データ:旅行コミュニティ(Mafengwo、Qunar、Ctrip)、ブログ(Zhihu、Douban)、SNS(TikTok、Xiaohongshu)の旅行記・レビュー。当初90件を収集し、精査後に64件(23の省級行政区、約7万6,000字)を分析
  • 手法:グラウンデッド・セオリー(3段階のコーディング)。53件でモデルを構築し、残る11件で理論的飽和(新しい概念が出なくなること)を確認
  • 結果:87の初期概念と15の予備カテゴリを抽出し、4つの主カテゴリに統合

論文は2026年6月11日にPLOS One 21巻6号に掲載されました(受理日2026年5月20日)[1]。

The Model4つの主カテゴリ・15の下位カテゴリ

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基礎条件(5項目)

  • 専門的なサービス接点
  • 体験コンテンツの革新
  • シーン雰囲気の創出
  • 現代技術の応用
  • 双方向的な社会的参加

論文は、基礎条件が深い体験の生成を促し、知覚評価を通じて個人的意義・社会的意義につながるという「トリガー・表出・効果」の流れを示しています。個人的意義と社会的意義は、相互に補完し合うとされています[1]。

Reading Notesこの研究から言えること、言えないこと

グラウンデッド・セオリーは、データから概念やモデルを導く質的研究の手法で、効果の大きさを数量的に検証することを目的とするものではありません。また、分析されたのは中国国内のICH観光の旅行記であり、日本の宿泊施設での体験にそのまま当てはまるとは限りません。

そのうえで、この研究は、伝統文化の体験が「深く」なる要素を、旅行者自身の言葉から整理した点に価値があります。体験の設計を考えるときの、観点の一覧として参考になります。

Our Proposal芸苑道からの提案:5つの基礎条件を、演目に置き換える

ここからは、芸苑道が宿泊施設の皆さまにお伝えしたい内容です。

1.『専門的なサービス接点』:演奏家本人の言葉

演目の背景や楽器の由来を、演奏家本人が語ることは、専門的なサービス接点そのものです。通訳を介しても伝わる、短く具体的な説明をご一緒に整えます。

2.『双方向的な参加』:聴くだけで終わらせない

楽器に触れる、短い音を鳴らしてみるなど、お客様が参加できる場面を演目に入れる方法があります。時間や空間に合わせて、無理のない形をご提案いたします。

3.『文化記憶』:その場だけの思い出に

お客様の記憶に残るのは、演奏そのものだけでなく、その場の設えや雰囲気です。空間の設えも含めて、一夜の体験としてご相談いただけます。

Ask Us貴施設に置き換えると

ここまでは、公開されている資料にもとづく事実の整理です。実際に何をどのように組み立てるかは、貴施設の規模・立地・客層・繁閑の形によって変わります。芸苑道では、次のような点を伺ったうえで、貴施設に合う形をご提案しております。

  • 問貴施設の体験は、この研究が挙げる要素をどれだけ備えているか5つの基礎条件に照らして、現状を整理するお手伝いをいたします。
  • 問お客様に『参加した』と感じていただくには聴くだけでなく、触れる・参加する要素の入れ方をご提案します。
  • 問体験が記憶に残り、周りへ伝わるようにするには体験の背景を伝える言葉と、思い出に残る設えをご一緒に考えます。

ご状況を伺ったうえで、実施できる形かどうかを率直にお伝えいたします。芸苑道へご相談はこちら →

Glossaryこの記事に出てくる用語

用語意味
文化観光ぶんかかんこう文化資源の観覧や、文化資源に関する体験活動などを通じて、文化についての理解を深めることを目的とする観光のこと。文化観光推進法(2020年施行)で使われている考え方です。
無形文化遺産むけいぶんかいさん芸能、社会的慣習、儀式や祭礼、伝統工芸技術など、形のない文化を保護するためのユネスコの枠組み。「無形文化遺産の保護に関する条約」は2003年に採択され、2006年に発効しました。
それぞれの語をクリックすると、出典つきの詳しい解説をご覧いただけます。

FAQよくある質問

この研究は、いつ、どこで発表されましたか?

2026年6月11日に、学術誌PLOS One(21巻6号、e0351084)で発表されました。著者は安徽工業大学のMing Lou、Shaomei Hu、Di Hu、Qing Zhangです。

何を分析した研究ですか?

中国のICH観光に関する旅行記・レビュー64件(23の省級行政区、約7万6,000字)を、グラウンデッド・セオリーで分析した質的研究です。

研究が示した『深い体験』のモデルとは?

5つの基礎条件が、5つの知覚評価を通じて、個人的意義(3項目)と社会的意義(2項目)につながるというモデルです。

Sources & References出典・参考文献

  1. Lou, M., Hu, S., Hu, D., & Zhang, Q.「Constructing a profound experience model of Chinese Intangible Cultural Heritage Tourism based on grounded theory」PLOS One 21(6): e0351084, 2026年6月11日 https://doi.org/10.1371/journal.pone.0351084

本記事は、公的機関・国際機関・学術論文などの公開情報をもとに作成しています(確認日:2026年10月11日)。数値や制度は改定されることがあるため、最新の情報は各出典の公式発表をご確認ください。

WRITTEN BY

細川 明日香

株式会社芸苑道 代表取締役。箏・三味線奏者。東京藝術大学 修士課程修了、日本当道会 師範。伝統芸能の実演家として、訪日のお客様に向けた文化体験を企画しております。著者プロフィール 個人サイト