The Studyどんな研究?世界遺産登録後の宿坊の変化を調べた
この研究ノートは、日本国際観光学会の『日本国際観光学会論文集』第33号(2026年3月、J-STAGEでの公開は5月13日)に掲載されました[1]。
著者は、2004年のユネスコ世界遺産登録をきっかけとした訪日外国人観光者の増加が、高野山の宿坊にどのような変化をもたらし、宿坊の宗教的な伝統や宗教空間としての意味をどう変えたのかを明らかにすることを目的としています。和歌山県の「観光客動態調査報告書」などの統計と、宿坊の住職(2022年6月)や高野町観光協会・高野山宿坊協会・高野山参詣講(2025年10月)への聞き取りをもとにしています[1]。
論文によると、2025年現在、高野山には金剛峯寺と117の塔頭があり、そのうち51寺院が宿坊を営んでいます[1]。
Inbound Guests訪日外国人の宿泊者はどのくらい?2019年には約半数
2020〜2022年はコロナ禍の影響で大きく減っています(2021年は0.7%)。
出典:明山文代(2026)表-1(和歌山県観光客動態調査報告書をもとに著者作成)
2023年に高野山に泊まった訪日外国人を国・地域別に見ると、フランス(1万3,999人)、米国(8,101人)、ドイツ(5,162人)、オーストラリアとニュージーランド(計3,535人)、スペイン(3,478人)など、欧米豪からの宿泊者が多くなっています[1]。
論文が紹介する高野町観光協会の2024年度の調査では、外国人観光者の出身は欧州50%、北米17.5%、オセアニア11.4%で、旅行人数は2人が55.3%、1人が21.6%と個人旅行が多く、81.9%が高野山に宿泊していました[1]。
Changing Rooms宿坊の何が変わった?襖の部屋から、壁で仕切った個室へ
従来の宿坊の客室は、襖で仕切った畳敷きの和室で、トイレや洗面所、浴室は客室の外で共同で使うものでした。論文は、1984年の弘法大師御入定1150年御遠忌大法会以降、個室化が進んだことを、当時の新聞記事も引いて示しています[1]。
- 2013年:52の宿坊のうち39(75%)で、壁で仕切った個室が襖で仕切った個室を上回り、うち9は壁仕切りの個室のみ
- 2013年・2018年の設備:洋式トイレのある宿坊は94.2%、ホームページは55.7%、茶室は40.3%
- コロナ禍の後:高野山宿坊協会によると、バス・トイレ付きの個室を提供する宿坊は8軒、トイレ付きの個室は4軒
- 高付加価値化:観光庁の支援策を活用したDMO高野町の取り組みで、バス・トイレ完備、縁側付きの二間続きにベッドを置いた「特別室」を設けた宿坊が複数あり、利用者の大半は訪日外国人
一方で、檀信徒のみを受け入れる宿坊や、一般の拝観者の内部拝観を行わない宿坊など、独自の道を歩む宿坊もあり、経営に格差が生じているとしています。高野町観光協会からは、人手不足と後継者問題も課題として挙げられています[1]。
Changing Experiences提供される体験はどう変わった?修行が「癒やし」として読み替えられる
すべての宿坊で
すべての宿坊で、宿泊者に朝の勤行への参加が用意されています。論文は、外国人観光者にとって、日常を離れた雰囲気のなかで日本の伝統的な仏教文化に触れる場になっているとしています。
自己集中、マインドフルネスへ
写経や真言宗の瞑想である阿字観は、主にチェックイン時の予約制で、有料の宿坊もあります。論文は、写経が「修行」から「自己集中・癒し」へ、阿字観が「マインドフルネス」へと読み替えられて実践されていると指摘しています。
3言語、カード決済
宿泊者以外にも、阿字観・写経・護摩祈祷の体験が有料・予約制で開かれています。寺院見学や昼食をセットにしたコースもあり、日本語・英語・フランス語で説明され、カード決済ができるウェブサイトで予約を受け付けています。
3つの変化が連動
論文は、建物の改修(空間的変容)、サービスの再編(機能的変容)、「修行」から「癒し・自己探求」への意味の読み替え(意味的変容)が、互いに影響し合いながら進んだとしています。
以上は、論文の5章と6章の要約です[1]。論文は今後の課題として、高野山以外の伝統的な宗教施設の事例との比較を挙げています[1]。
寺に泊まる体験を国の観光資源とした韓国の事例は、関連記事:韓国「テンプルステイ」で紹介しています。
Our Proposal芸苑道からの提案:静けさの中で、音に耳を傾けるひととき
ここからは、芸苑道が宿泊施設の皆さまにお伝えしたい内容です。
1.「癒やし」と「本物らしさ」の両立
研究は、宗教的な実践が、海外のお客様にとって癒やしや自己探求の体験として受け止められていることを示しています。伝統芸能も、由来を大切にしながら、静かに味わっていただく形でお届けすることで、こうした関心にお応えできると考えられます。
2.空間の響きを活かした演奏
寺院や歴史ある日本建築では、箏や尺八の音が空間に柔らかく響きます。朝や夕方の静かな時間に、少人数で耳を傾けていただく演奏会をご提案いたします(講師1名あたり¥88,000〜)。
3.個室の時代だからこそ、集う時間を
個室化が進むと、お客様同士や土地の文化と触れ合う機会は少なくなりがちです。広間やラウンジで短い演奏の時間を設けることは、滞在の中に皆さまで集うひとときをつくる方法のひとつです。現地の条件をうかがって、ご相談を承っております。
Ask Us貴施設に置き換えると
ここまでは、公開されている資料にもとづく事実の整理です。実際に何をどのように組み立てるかは、貴施設の規模・立地・客層・繁閑の形によって変わります。芸苑道では、次のような点を伺ったうえで、貴施設に合う形をご提案しております。
- 問精神性を求める海外のお客様に、どんな時間をご用意できるか静かに音に耳を傾けていただく、少人数の演奏会の形をご提案いたします。
- 問寺院や歴史ある建物での滞在に、伝統芸能をどう合わせるか空間の響きや雰囲気に合う楽器と演目を、ご一緒に考えます。
- 問個室中心の宿でも、皆さまで集う時間をつくれるか朝や夕方の短い集いの時間に演奏を添える進め方について、ご相談を承っております。
ご状況を伺ったうえで、実施できる形かどうかを率直にお伝えいたします。芸苑道へご相談はこちら →
Glossaryこの記事に出てくる用語
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 観光地域づくり法人(DMO)かんこうちいきづくりほうじん | 観光庁の説明では、地域の「稼ぐ力」を引き出し、地域への誇りと愛着を育てる観光地域づくりの司令塔として、多様な関係者と協働しながら戦略を策定・実行する法人のこと。 |
FAQよくある質問
この研究はいつ、どこで発表されましたか?
和歌山大学大学院観光学研究科の明山文代氏による研究ノートで、『日本国際観光学会論文集』第33号(2026年3月)に掲載されました。J-STAGEでの公開は2026年5月13日です。
高野山の宿泊者のうち、訪日外国人はどのくらいですか?
論文の表(和歌山県観光客動態調査報告書をもとに作成)では、全宿泊者に占める訪日外国人の割合は2019年に48.5%(10万8,993人)、2023年に42.9%(9万3,907人)でした。
高野山の宿坊はいくつありますか?
論文によると、2025年現在、高野山の117の塔頭のうち51寺院が宿坊を営んでいます。
Sources & References出典・参考文献
- 明山文代「高野山の宿坊の観光資源化の実態分析:訪日外国人観光者の増加とその影響」日本国際観光学会論文集 33, 163-172, 2026年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jafit/33/0/33_163/_article/-char/ja
本記事は、公的機関・国際機関・学術論文などの公開情報をもとに作成しています(確認日:2026年10月18日)。数値や制度は改定されることがあるため、最新の情報は各出典の公式発表をご確認ください。
