GEIENDO芸苑道
調査・研究レポートFive Senses in the Wellness Spa Experience (2026)

スパの心地よさは、
五感のどれで決まるのか

公開 更新 文・細川明日香(株式会社芸苑道 代表)読了 約7分
スパの心地よさは、五感のどれで決まるのか——タイ・プーケットの利用者221人を調べた2026年の研究、音は「健康によい」という実感と結びつき、話し声や物音は没入を妨げる【学術論文】
ANSWER

2026年9月23日に学術誌Tourism Recreation Researchでオープンアクセスとして公開された研究(Insuwanno・Hwang)は、タイ・プーケットのスパで、利用者30人への聞き取りと221人への現地調査を行い、五感が体験にどう影響するかを分析しました。聞き取りでは、歌のない器楽や水の流れる音が没入感を高め、話し声や物音が没入を妨げると語られました。調査の分析では、聴覚の体験が「健康によい」という実感(健康の感じ方)に有意に関係していました(β=0.23)。また、没入感と健康の実感は、その時点の気分と生活の満足感を高める方向に関係していた一方、日常からの逃避感は生活の満足感と負の関係にありました。

このテーマの全体像はこちら観光の「本物らしさ」は誰が決める?真正性研究の3つの理論【MacCannell・Cohen・Wang】

The Studyこの研究は、何を調べたのか

スパは、施術の手ざわり、香り、音楽、景色、お茶などが重なる、五感の体験の場です。この研究は、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚のそれぞれが、スパでの体験にどう結びつくのかを調べたものです[1]。

項目内容
著者Patthawee Insuwanno(タイ・プリンス・オブ・ソンクラー大学)、YooHee Hwang(香港理工大学)[1]
場所タイ・プーケットのスパ(デイスパ、メディカルスパ、ホテルのスパなど)[1]
方法聞き取り(30人、タイ語と英語、1人約45分)と現地での質問紙調査を組み合わせた混合研究法[1]
調査の対象施術を終えた直後のスパ利用者。244票を回収し、有効回答は221票[1]
測った体験逃避感(日常から離れた感覚)、没入感、健康の感じ方、そして生活の満足感と気分[1]
掲載Tourism Recreation Research(2026年9月23日オンライン公開、オープンアクセス)[1]

聞き取りの対象者は21〜56歳(平均36歳)で、うち9人がプーケットを訪れた海外からの旅行者でした。調査の回答者は58%が女性で、主な目的は「リラックス」(67.42%)、最も多く受けたサービスはマッサージ(57.02%)でした[1]。

Key Findingsどの感覚が、どの体験に結びついていたのか

ボタンで切り替えると、調査の分析で統計的に有意だった関係の強さ(標準化係数β)を見比べられます[1]。

五感と体験の関係(標準化係数β)
  • 触覚(施術、素材)β=0.29
  • 聴覚(音楽、自然の音)β=0.23
  • 味覚(ハーブティーなど)β=0.15

触覚・聴覚・味覚の体験が、「健康によい」という実感と有意に関係していました。

出典:Insuwanno & Hwang (2026), Tourism Recreation Research をもとに作成

The Role of Sound音は、スパの体験で何をしていたのか

聞き取りでは、歌のない器楽と水の流れる音が聞こえてリラックスでき、施術に没頭できたという声が紹介されています。反対に、物を扱う音、人の歩く音、部屋の外の話し声が気になり、没入から引き戻されたという声もありました。論文は、没入感は心地よい刺激があるだけでなく、妨げになる刺激がないことにも左右されると述べています[1]。

調査の分析では、聴覚の体験は健康の感じ方と有意に関係していました(β=0.23)。論文は、背景音楽のような心地よい音が不安を和らげ、健やかさを高める一方、音の不快さは逆の影響を持ちうるとする先行研究にも触れています[1]。なお、論文の要旨では、聴覚は没入感と健康の感じ方の双方に関係する感覚として整理されています[1]。

実務への示唆として、著者は、心地よい音楽や自然の音、騒音を減らすことで、音の快適さを高め、没入感と心身の健やかさを支えられるとしています。季節ごとの香りや特別なサウンドトラックなど、テーマのある感覚の演出も提案しています[1]。

研究の限界

著者は、対象がプーケットのスパに限られること、回答数を増やせば一般化の度合いが高まること、一時点の調査であるため、生活の満足感との関係は回答時点の気持ちとして解釈すべきことを挙げています[1]。観光の「満足」をめぐる研究は高級ホテルの口コミの研究でも紹介しています。

Our Proposal芸苑道からの提案:湯と音を、ひとつのひとときとして

ここからは、芸苑道が宿泊施設の皆さまにお伝えしたい内容です。

1.「歌のない器楽」としての邦楽器

研究で没入を助けた音として語られたのは、歌のない器楽と水の音でした。箏や尺八、琵琶の音色は、もともと言葉に頼らず、余白や間を大切にする音楽です。スパや湯上がりのラウンジで、音量を抑えた生演奏を短く置くことをご提案いたします。

2.音を「足す」前に、音を「整える」

研究は、話し声や物音が没入を妨げることも示していました。演奏の時間を設ける際には、演奏の場所、お客様の動線、スタッフの方の作業の音まで含めて、空間全体の音を整えることが大切だと私たちは考えています。現地を拝見したうえで、演奏の位置と時間帯をご提案いたします。

3.「健やかさ」を感じていただく時間に

研究では、音の体験が「健康によい」という実感と結びついていました。朝の静かな時間や、夕暮れの湯上がりに、季節を映した曲を一曲。ウェルネスを大切にされる貴施設の時間に寄り添う構成をご用意いたします。演目の選定・空間の設え・進行の設計まで、講師1名あたり¥88,000〜を目安にご相談を承っております。

Ask Us貴施設に置き換えると

ここまでは、公開されている資料にもとづく事実の整理です。実際に何をどのように組み立てるかは、貴施設の規模・立地・客層・繁閑の形によって変わります。芸苑道では、次のような点を伺ったうえで、貴施設に合う形をご提案しております。

  • 問貴施設のスパや湯上がりの空間に、どのような音がふさわしいか空間の広さと過ごし方に合う楽器と音量をご提案いたします。
  • 問生演奏と、録音の音楽をどう使い分けるか時間帯ごとに、生演奏が生きる場面を一緒に整理いたします。
  • 問音で「健やかさ」を感じていただく滞在をつくれるかウェルネスの時間に寄り添う、静かな演奏の構成をご相談いただけます。

ご状況を伺ったうえで、実施できる形かどうかを率直にお伝えいたします。芸苑道へご相談はこちら →

FAQよくある質問

この研究は何を調べたものですか?

タイ・プーケットのスパを対象に、利用者30人への聞き取りと221人への調査から、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚が、逃避感・没入感・健康の感じ方、そして生活の満足感や気分にどう結びつくかを分析した研究です。

音はスパの体験にどう影響していましたか?

聞き取りでは、歌のない器楽や水の音が没入感を高め、話し声や物音が没入を妨げると語られました。調査の分析では、聴覚の体験が「健康によい」という実感と有意に関係していました(β=0.23)。

この結果はどこまで一般化できますか?

著者は、対象がプーケットのスパに限られること、一時点の調査であることを限界に挙げ、他の地域や異なる文化圏での検証が必要だとしています。

Sources & References出典・参考文献

  1. Insuwanno, P., & Hwang, Y. (2026). Five senses in wellness spa experience: sources of escapism, immersion, and health perception. Tourism Recreation Research. Published online 23 September 2026. Open access (CC BY 4.0). https://doi.org/10.1080/02508281.2026.2725937

本記事は、公的機関・国際機関・学術論文などの公開情報をもとに作成しています(確認日:2026年10月10日)。数値や制度は改定されることがあるため、最新の情報は各出典の公式発表をご確認ください。

WRITTEN BY

細川 明日香

株式会社芸苑道 代表取締役。箏・三味線奏者。東京藝術大学 修士課程修了、日本当道会 師範。伝統芸能の実演家として、訪日のお客様に向けた文化体験を企画しております。著者プロフィール 個人サイト